南相馬米's
天のつぶを科学で解明
福島大学 副学長
食農学類教授
新田 洋司さん





今日は「南相馬のお米の美味しさを探る!」というテーマでお話を伺います。新田先生はどんな研究をされているんですか?

 稲、麦、トウモロコシなど、人が食べる作物を研究する作物学です。品質のいい作物をより多く収穫するにはどうしたらいいかという研究を、特に電子顕微鏡を使ってやっています。

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顕微鏡でどういった分析をするのでしょうか?

 美味しい米の特徴は、電子顕微鏡で観察すると分かるんです。精米した米を炊いて液体窒素で急速凍結し、それを世界でうちの研究室にしかない真空凍結乾燥機で凍結乾燥します。その米の表面と割断面をプラチナでコーティングしてこの走査電子顕微鏡で観察します。
 これは「天のつぶ」の表面の構造ですが、糊化(こか)が進んで繊維と繊維がくっ付いたような、膜のような構造が広がっています。ちょっと奥のほうを見ると、多孔質構造と言うのですが、スポンジの穴のような構造が広がっています。これが一般的に言われている、美味しい米の特徴です。こういったお米が、食べた際に粘りや滑らかさ、弾力があると評価されています。

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「天のつぶ」の炊飯米の表面


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炊飯前の米粒食味計の計測で、タンパク質やアミロースの数値が出ましたが、これらの数値は食味にどう関係していますか?

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 一般的に数値が低いほうが美味しい米と言われています。少なければいいというわけではなく、アミロースは18~20%、タンパク質は6~7%台が良食米と評価される場合が多いようです。これらの分析結果を元に、農家のかたにタンパク質や肥料を入れる時期などを指導しています。

福島大学では、南相馬市と共同して「天のつぶ」のほ場や成分の調査測定をされているとのことですが、「天のつぶ」の品質や食味はいかがでしょうか。

 「天のつぶ」は米粒が大きいので、いわゆる粒感を強く感じられる米です。それに加えて、「コシヒカリ」が持っているような表面の構造を持っています。先ほど申し上げた繊維状の構造や膜のように見える構造、そして内側に多孔質構造ということです。新しい品種に結構多いのですが、中心部は糊化が進んでいない部分が多いことも粒感の要因になっています。これらの要因があいまって、「天のつぶ」は食味としていい構造を持っています。
 一粒一粒がしっかりしているのが「天のつぶ」の特徴なので、それを生かすいろいろな食べ方があると思います。

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どんな食べ方がオススメですか?

 大粒の米というのは食べた時にいい印象を与えるので、まずは白米でいいと思います。「このお米、美味しいね」というファーストインプレッションが違います。加工にも適しており、牛丼や親子丼、海鮮丼などのどんぶり飯には好適だと思います。また、パエリア、リゾット、チャーハンにして食べるのも非常に適していると思います。
 東京駅で酒米を使ったおにぎりを売っている店を見付けたのですが、酒米は粒が大きいんです。やっぱり粒感があって美味しかったので、「天のつぶ」もおにぎりにして販売したらヒットするかもしれません。ああいう食感のおにぎりはなかなかないので、これもオススメしたいと思います。

美味しいお米の出来る条件や地域特性はどんなことでしょうか。

 一番大きいのは環境条件です。夏の稔実(ねんじつ)する時期に日差しが十分あること。それから昼間は日射が強くて気温が上がり、夜は下がって昼夜の気温差があること。新潟の魚沼地域、福島なら会津地方、山形県の庄内地方などがそれに当たります。ところが「天のつぶ」は、どこで作っても同じような粒感を持つ米が出来ます。環境条件がどんなところでも比較的適応できるというのは、「天のつぶ」のプライオリティではないかという気はします。
 南相馬はこれまで様々な米を作って来た地域です。そこで「天のつぶ」を作るということに、歴史的な価値があると思います。「天のつぶ」は、肥料を入れたらその分だけ収量を上げることができるという特性があります。また稲の緑が非常に濃く、比較的背の低いがっちりした体形をしているので、精神的なことかもしれませんが見た目にも非常に信頼がおけます。南相馬の農家の皆さんに歓迎されているのは、そういった理由によると思います。

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これから移住などで新規就農しようというかたにもオススメできる品種ですか?

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 失敗することがないですね。「コシヒカリ」は窒素の肥料を入れる時期を誤ると倒れてしまったりしますが、「天のつぶ」ほとんどありません。肥料を入れたらその分だけ、しっかり育ってくれます。新規就農の方でも安心して作ることができます。

これから農家さんや自治体の方々とやっていきたいことは。

 福島大学の食農学類は平成30年に新設されました。国立大学で農業系の学部が出来たのは40数年ぶりのことです。研究のための研究ではなく、研究で得られた成果を現場に還元していかなければならないと思っています。農業の現場に近く、また県土が広いので、非常にいい立地条件だと思います。
 その広い県土で、みんなが美味しい米、品質のいい米を作りたいといっても、地域によって環境条件や肥料の効きかたも違うわけです。それぞれの地域に応じた環境制御技術や栽培制御技術が求められています。これからはそれに対応していきたいですね。もしかしたらオーダーメイドになるかもしれませんが、それぞれの地域の現象を解析・解明して、それを克服するために栽培制御技術を開発していきたいと思っています。

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